院長 文元基宝
開業20周年のインタビュー
Q. どうしてはっぴークラブを発足させたのですか?
文元歯科医院は平成5年10月に開業しました。当時、この地域ではう蝕(虫歯)にかかっている子供が多かったんです。重度のう蝕やランパントカリエス(下の前歯を含むすべての乳歯に急速・広範性に起こる虫歯の症状)もありました。それで「予防」を痛感したんですね。
ただ予防を標榜しても虫歯のない子供はすぐ来院しません。「歯医者は悪くなってから来る場所」ですから。「まずは子供たちから虫歯をなくそう」という思いではじめました。
3歳児健診で虫歯が見つかる、あるいは虫歯の本数が増えたりします。3歳までに歯科医療関係者と出会う機会が少ないんです。悪くなる前に歯科医療関係者と早く出会える環境を地域に作らなければと思いました。
「治療ではなく予防を」の意思を示したくて、先に福岡で実践されていたグループを参考にしてクラブにしました(はっぴークラブは平成7年設立)。
Q. 開業して20年、クラブ設立から18年間を振り返っていかがですか?
苦労はあまりなかったですね。クラブにした当初、予防に興味のあるお母さんへ説明したり、母親教室を開催していました。会員数が急激に増えたわけでもなかったのでじっくり取り組めましたので。
苦悩はありました。クラブに来ても虫歯の状況が改善しなかったときです。親御さんは嫌ですよね。どうして?!って思われます。フッ素は強力な予防の手段です。フッ素だけしていれば….の過大な期待を持たせてしまったかもしれません。コミュニケーションをもっと深めなければならないと振り返っています。
あとは費用です。年会費とフッ素の費用を負担していただいてます。みんながハッピーになる想いを持っていても、保険診療外の負担をお願いする点は苦心しました。それは今も変わりません。
Q. どんなときがうれしかったですか?
それはもう子供の成長ですね(笑) 健康な姿を目にするたびにちょっとでも関われたかなと感じます。祖父母、父母、子、の3代つながって関われることはうれしいです。
予防は数年から7,8年で結果はでません。私たちも内省をくりかえしてカリエスフリーを目指しています。18年前の子供たちが成人近くまですこやかに育っている姿を目にすると、やってきてよかったと実感します。
Q. 一昨年、小児歯科の見直しとともにクラブを刷新しました。転機は?
クラブのシステムがいまの地域の実態と合わなくなってきたんです。いまでは他の医院でも予防歯科をやっています(笑)。クラブとして運営する意義が試されているんですね。そこで内容や費用をスタッフと議論しました。
しっかりセルフケアできている子供は予防できていますから、「予防=はっぴークラブ」ではなくなります。クラブがすべてではないといったん立ち返りました。
それでクラブの価値を確認できました。「継続してつながっていく」ことです。
子供たちとコミュニケーションを積み重ねて、生活習慣や口腔内の情報を蓄積します。それは10年以上にわたります。これまで1,000人以上の子供が入会してくれました。過去の情報と経験から評価や効果を提示できます。
Q. これからクラブでやりたいことは?
二つあります。ひとつは専門家からのメッセージを発信し続けることです。う蝕の罹患率やフッ素洗口の効果、子供の咬み合わせなどの情報を発信していきたいですね。
18年前と比べて子供の口腔内は変わりました。総じてよくなっています。親御さんは虫歯以外にも関心を持ち始めています。しかし、まだたくさんの子供たちが虫歯にかかっています。カリエスフリーを目指す目標は昔も今も変わりません。
もう一つは考える場です。「口」からはじまってより広い健康についてみなさんといっしょに考えたいですね。健康はたったひとつの正解を与えられるのではなく、ひとりひとりが異なる健康を自らつくっていくものと私は考えています。
地域についてもっともっと知りたい。子供たちはどんなおやつを食べて、何を飲み、どんな遊びをしているか? 専門家の殻を取り払って、みなさんと対話しながら考える場にしていきたいです。